証券税制の改正

えぇ〜、今日はクライミングとも山も関係ない話ですいません、しかも真面目な話です。

与党の税制改正大綱が発表されて、2009年からの有価証券関連の税制の概要が出た。参議院がねじれてしまっているし、正月早々の解散も無くはないので、例年なら「これで決まり」と言うところだが、今年はそうも行かないだろう。ただ、有価証券関連の税制の流れとしては、ほぼまとまったみたい。

  • 優遇税率は、譲渡益500万円までとし、2年間延長する。
  • 配当に対する優遇税率は、配当額100万円を上限とし2年間延長する。
  • 一定の限度で譲渡益と配当所得の損益通算を認める。

というもの。まぁそもそも「証券優遇税制」なんて言い方には、実に困ったもんだと思っている。「証券投資促進税制」と言っていれば、議論もだいぶ違う方向に行くんだろうが、公明党が「これは金持ち優遇税制の一つなので、早いとこ本則の税率にすべきだ」なんてバカなこと言っているせいで、妥協の産物としておかしな制度が提案されてしまった。

色々論議は出ているんだけど、俺なりに思う、いくつかどうしようもない点を指摘してみたい。

まず、今日本の株式市場から投資家が去りつつあるこの時期に、「税率を本則に戻そう」なんて発想がどうして出てくるのか。少しでも多くの投資家に市場の魅力をアピールして、日本の市場に投資してもらわなければならんのに、この時期にマイナスの話をする神経が、理解できません。「貯蓄から投資へ」のスローガンはどうなってしまったのか。ありゃ「金持ち優遇」のスローガンじゃないよね。

次に、制度の複雑さ。今の「譲渡益税、配当ともに税率10%(国税7%地方税3%それぞれ円未満切捨て)というのは、実に簡単でわかりやすい制度である。どんな人にでも単純明快に理解される。ま、これを理解できない頭脳なら、証券投資などしちゃいかん、というくらい簡単である。当然、システムも比較的単純。多くの投資家が使っている「特定口座、源泉徴収あり」ならば、課税関係はほとんど考える必要が無いくらいといって良い。

しかし、500万円を上限に10%と20%の税率を適用する、というのは、ナカナカ難しい。また、配当額の上限100万円もどうやって把握できるのか、これも難しい。

「譲渡益500万円」と言うのは、誰がどうやって把握するのか不明。税制が提言されているのに徴税のための実務についての言及がないと言うのは、一体どうしたことだろう。今どきの投資家は、複数の証券会社で取引しているのが割りと当たり前。運用額5000万円とか1億円のような、公明党が目の敵にしているような「富裕層」でなくても、運用額1000万円未満の投資家でも普通に複数の証券会社で取引している。

「特定口座、源泉徴収あり」に対して譲渡益500万円を把握するための方法として考えられるのは、全て20%(本則)で徴収し、投資家は確定申告により取られすぎを取り戻す、年間取引報告書の税務署への報告は、今までどおり無い、というもの。システム的にも簡単で、税務署の事務量もほとんど増えないだろう。でも、これはさすがに受け入れられないだろう。次に考えられるのが、各証券会社は譲渡益500万円で税率の違うシステムを構築し、年間取引報告書を全て税務署にも提出する、投資家は複数社の譲渡益の合計が500万円以内だったら確定申告する必要はないが、500万円を越えていたら確定申告し、納税しなければならない、というもの。税務署は年間取引報告書を名寄せし、譲渡益の合計が500万円を越えているか否かを把握する。これは、投資家には割りと受け入れられると思うが、証券会社に新たなシステム開発の負担が生じ、税務署の事務量も膨大なものとなる。

配当については、時価で2000万円程度の割と配当利回りの良い銘柄群と毎月配当型の投資信託時価で500万円程度保有(貧乏人じゃないけど、少なくともこの程度が大金持ちとはいえないでしょう)していれば、多分引っかかってくるはず。これも、どうやって把握するつもりなのか。一箇所でだけやっていれば話は簡単だが、複数の証券会社と取引があると、譲渡益と同じような把握の難しさが出てくる。

そういった点をほとんど考慮せずに、「上限譲渡益500万円配当100万円」とか言われても、ハイそうですかって言えないと思う。とにかく投資家は煩雑さを嫌う。「特定口座、源泉徴収あり」ってのは、そういう意味で非常に良い制度だと思うが、その良さを今捨てる必要があるのか、全く理解できない。

一番良い解決策は、今の税率(10%)を租税特別措置じゃない、恒久化した制度とすること。それはどうしてもイカンと言うなら、増税しても市場は大丈夫と言うきちんと論拠を示したうえで税率20%一本にすべき。とにかく、株式市場は税金に対して打ち出の小槌じゃないということをシッカリ認識してほしい。大きくて強大な経済力は、日本の安全保障にとって非常に大事なこと。株式市場というのは、そのためにも活況でなくてはいけない。「優遇」なんてバカなことを言うのだけは、ヤメて欲しい。